香水

 フィロシコスの第一印象は「嗅いだことがある」だった。ディプティックはずっと気になっていて、まだ大学生だった頃に、ハワイのアラモアナセンターでドソンを試香させてもらった。その時はドソンの匂いは苦手だった。そして思ったより高かった。だからすぐに店を出た。白人の女性が店員をしていて、優しかったことを覚えている。好きな匂いなのに好きになれない香水は初めてである。

 今月はもう一本香水を買った。トムフォードのブラックオーキッド。奈良裕也のインスタを見て、彼が使っているなら真似したいと思って買った。日本橋高島屋。雨の中、平日、しかも火曜日、週前半の1番テンションが上がらない時、職場からわざわざ歩いて行った。自分にご褒美をあげるほど特に頑張った日ではなかったけど、どうせ買うなら早いほうがいいと思った。黒の小さなボトル。全体に縦の溝。金色のパネルが付いている。50ミリを買った。

 ブラックオーキッドはとても甘い匂いである。ズドンとして重い。夜につけるべき匂いである。ただしつけると落ち着くのではなく、逆に心がざわざわする。寝香水には向かない。

 いかにもトムフォードという感じがする。カッコつけることを楽しめる類の香水である。つけていくべき場所と、自分が普段行く場所の乖離が大きすぎるので、あまり出番はない。そんなこと買う前からわかっていた、わかっていたけど置いておくだけで気分が上向きになる。こういう香水を買った時、自分のものを選ぶ目は確かだと思う。実用的であるかどうかなど、全くもってどうでもいいのである。

 

 他にも香水はちょこちょこ持っている。初めて買ったフォッシルのサマー。香水を買うということが恥ずかしくてたまらなくて、それでもどうしても欲しくて我慢できずに買った。瓶がエメラルド色で蓋が木製。装飾が凝っていて少し安っぽい(実際安い)。大切な香水の一つで、中学生の頃に買ったのにまだ使い切っていない。匂いもだいぶ劣化しているだろうけど捨てられない。

 父が旅行先で買ってきてくれたディオールオム。オムがフランス語で男だということをこのボトルの名前で初めて知った。シンプルな四角いボトル、柑橘系。確か姉にはミニセットを買ってきていて、ジャドールやミスディオールが入っていた。

 母がナイルの庭を買ったときに、サンプルでもらった李氏の庭。ジャンクロードエレナの庭シリーズはどれも好きだけど、私は特に李氏の庭が好き。上品。

 ニューヨークで買ったバイレード。バーレードなのかバイレードなのか分からない。ど定番のジプシーウォーター。香水は高かったからヘアパフューム。レディーガガのジプシーという曲をよく聞いていたのでこれを選んだ。この香水を爽やかだと褒める投稿をよく目にするけど、あくまでバニラ主体に香るから、爽やかともちょっと違う気がする。でも人気なのはわかる。「都会的」を演出できる匂い。

 コムデギャルソン、ワンダーウッド。誕生日プレゼント。ギャルソンを人から買ってもらうってなんか格好つかないけど、こういうお香みたいなの一つは欲しかったから嬉しかった。ある友達に臭いから手洗ってこいと言われたことを覚えている。あの時はすみませんでした。

 資生堂のゼン。リニューアルしたやつ。金色の四角いボトル。この匂いは最高に好みである。使いやすい。フローラルで柔らかい香りだから男っぽい格好の時に付けたい。革ジャンにデニムの時とか。でも、状況や格好を選ばず、どんな時に付けていても嫌がられない香りだと思う。柑橘じゃないこういう香水はあまり出会ったことがないのでとても重宝する。資生堂のイメージとこの香水の方向性はベストマッチしている気がする。

 ZARAとJo LOVESのコラボ、アマルフィ・サンレイ。なんとなく「君の名前で僕を呼んで」のシャラメをイメージしてこれを選んだ。イタリア繋がり。ジョーマローンは好みじゃないけど、この値段ならと思って買った。セール。セールにかかるコラボ品をありがたくハイエナした。イオンモール熊本。誰も見向きもしてなくて、わさもんは流石流行に敏感である。香りはすごく好き。イメージ通り夏につける。

 ケルゾンのチュイルリー庭園。ノーズショップ新宿。まんま花束の匂い。ガッツリ青い茎や葉っぱの匂いがする。ほとんど持続しないから部屋中に振りまく。休日の朝の匂い。

 

 香水だけでもまだまだ欲しいものはたくさんある。まずはゲランの夜間飛行が欲しい。そのためにも夜間飛行を読まなければいけない。作者繋がりで必ず思い出す星の王子さま、みんなが良いというからきっと何かが良いのだろうけど、あまり価値を分からずに読み終えてしまった。もう内容も覚えていない。薔薇の挿絵だけ覚えている。

 大学の授業で、「子供向けのフリをした大人向けの漫画」を批判する文章を読んだ。作者の主張さえ今では忘れてしまったのに、そこからこういう本は特に避けていた。サン=テグジュペリの本を読み返してみる良い機会かもしれない。

 

 親と匂いがかぶるのはすごく嫌だけど、ナイルの庭も欲しい。他にはココノワール。アリュールオムも。シャネルの瓶は凝りすぎていないのに格好良い。ルタンスのサンタルマジュスキュルも手に入れたい。ルタンスの手がけた資生堂のCMが好きでたまに思い出したように見ることがある。ルタンスは「個性的でありたい」という、既製品には向けてはいけない消費者の欲求を叶えてくれそうなブランドで、そこがギャルソンと似てて好きである。あとはロードゥイッセイ。イッセイミヤケは服から小物から全て好みだ。早くプリーツの服も買い足したい。

 

 欲しいものを抱え切れないほど目の前にして、私は不幸であり幸福である。

 三連休、もうお金は残っていないけど、夜間飛行だけ嗅ぎに行こうかな。多分帰りに手ぶらでマックに寄って、クーポン使ってポテトのLだけ食べてるんだろうな。